最高のアドバイザー
作:ねこすき☆とも
SS「やかましい君と…」後の話。健二は街を歩いていると思わぬ人物と出会う。
「…暇だ」
俺は賑わう商店街を歩きながらぽつりと呟いた。
世間一般で言う大型連休。今日はその最初の休日だ。
半袖では肌寒く、長袖では少し熱いという微妙な天気の中、
俺は商店街を一人で歩いていた。
別に何か用事が合った訳でもなくただ歩いている。
当然恋人である『進藤さつき』には誘いを入れた。
しかし、「その日は外せない用事がある」と言われた。
さつきは何度も謝ったがそれはしかたない事。
別に俺は怒っているわけではないし相手を縛り付けるのも好きではない。
……別の意味では好きだが…
「夜にでも電話してみるか…」
そう言って俺は次の行動を考えた。
家に帰っても特にすることはない。
だから商店街まで出てきたのだ。
しかし、散歩にも飽きてしまった。
日和や清香にでも会えば多少時間は潰せるのだが…
「あれ?」
駅前まで歩いてきた時俺は見慣れた人物を見つけた。
「さつきじゃないか、何やってるんだ?」
きょろきょろと辺りを見回し落ち着きがない。
誰かを待っているのだろうか?
とりあえず話しかけようと俺は小走りで近づいた。
「さつき、何してんだ?」
「あ!お久しぶりです、健二さん」
え!?お久しぶり?(0.1秒)
昨日会ったばかりなのに?(0.2秒)
ひょっとして人違い?さつきじゃない?(0.3秒)
俺、今ものすごく恥ずかしい人?(0.4秒)
確かに雰囲気がいつもと違う(0.5秒)
服装とか女の子らしいし(0.6秒)
いや、さつきが別に女の子らしくない訳ではないが…(0.65秒)
けど、どう見たってさつきだし…(0.7秒)
他人の空似?ドッペルゲンガー?(0.75秒)
世の中に三人はいると言うよく似た人?(0.8秒)
どちらにしてもさつきではない!(0.85秒)
さて、どうやってごまかそう?(0.9秒)
あれ、でも俺の名前知ってたな?(0.95秒)
健二さん?健二さん……まさか!(1秒)
ぐらっ
結論に達した瞬間俺はめまいを感じてよろけた。
「あの?どうかしましたか?」
「いや、頭の演算能力が限界を超えただけです」
努めて冷静に応えると俺は結論を口にした。
「あの…むつきさん…ですよね?」
「ええ、そうです」
「お久しぶりです」
俺の結論は正解だった。
さつきの双子の姉『進藤むつき』
双子ではあるが非常におしとやかで外見以外は似ても似つかない。
……一部をのぞいて…
そう、この二人は「静」と「動」ではあるが非常によく似た性質を持っている。
行動力がある事。
言い出したら聞かない事。
たまに何を考えているか分からない事。
この一面を見ると二人が双子であることが納得できる。
「いつ帰ってきたんですか?」
「昨日の夜です」
「休みの間はこっちに?」
「ええ」
「だからか…」
「はい?」
「いや、最近さつきの機嫌がやけによくて」
「ああ、さつきがお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
この手の会話はどうも恥ずかしい。
とは言えさつきの家に電話を掛けて母親が出るとこの会話から始まるので最近は慣れてきたが…
「そう言えば…」
「何ですか?」
「さつきと間違えましたね」
「…不覚にも」
「やっぱり見分けつきませんか?」
「一卵性双生児で似てなかったら変ですよ」
「いえ、そう言う意味ではなくて…」
「?」
「恋人でも見分けられませんか?」
「うーん…雰囲気違うし、よく見たら分かりますけど、正直ぱっと見ただけでは…」
「ふふ…」
「どうしました?」
「いえ、それなら今度入れ替わってみようかな、と」
「やめてください、心臓に悪いです」
「はは…」
「それに喋ればすぐ分かりますよ?」
「そうですね」
とんでもない事を考える人だ。
「そう言えば、むつきさんはここで何をしてるんですか?」
「ええ、さつきと待ち合わせているんですけど…」
「さつきと?」
「はい」
なるほど、用事ってのはこの事か。
「買い物か何かですか?」
「いえ、私と一緒に健二さんの家に押しかける…って」
「アイツは…」
「だけど、待ち合わせの時間になっても来ないんです」
「よくある事です」
「まぁ!」
「自分はよく遅れるくせにこっちが遅れると怒るんですよ」
「さつきらしいですね」
「電話でも掛けましょうか?いつもそうしてますし」
「はい」
「えっと…電話、持ってますか?」
俺はあいにくと携帯電話なんてハイテクな物は持っていない。
「どうぞ」
「すいません」
俺は携帯電話を受け取るとすばやく番号をプッシュした。
二、三度コール音が響き電話特有のくぐもった声が聞こえた。
「はい、進藤です」
「もしもし、片瀬と申しますが」
「あ、どうも、さつきがお世話になっています」
「こちらこそ、あの、さつきさんおられますでしょうか?」
「はい、少々お待ち下さい」
電話の音が待ち受け音に変わった。
「家にいるそうです」
「あら…」
「まぁ、いつもの事です」
お互いに苦笑い。
「はい…あなたのさつきです…」
ようやくお目当ての人物が出た。しかし…この反応は…
「お前…寝てたろ?」
「そうですけど…起こすならキスで起こしてください」
「しかも寝ぼけてるな?」
「そんな事ないですよ〜」
「もう昼過ぎだぞ…」
「地球の裏側は夜です」
「誰がそんな所の話をしている」
「それより何の用ですか?」
「いや、用があるのは俺じゃないんだが…」
「…意味が分かりません…」
「お前…大事な用事忘れてないか?」
「用事?用事…ようじ…ヨウジ…」
「…」
「用事…!しまったぁあぁあぁ!!!」
鼓膜いてぇ…
「先輩!スイマセン!今夜にでも電話します!でわっ!」
「…」
「健二さん?」
「寝てました、すぐに来ると思います」
俺は電話を返しながらそう告げた。
「いつもの事…ですか?」
「…です」
「苦労しますね…」
「お互いに…」
またしてもお互いに苦笑い。
察するに同じような経験があるのだろう。
裏表がなく誰に対しても同じ自分を見せる事ができる。
それが『進藤さつき』と言う人物なのかもしれない。
「健二さん」
「はい?」
「さつきの事、よろしくお願いしますね」
「ええ」
「さつきはああ見えて結構ナイーブな所がありますから?」
「な、ないーぶ…ですか?」
「ええ、ああいう性格なんで悩み事なんか自分一人で解決しようとしちゃうんです」
「はぁ…」
「相談なんか滅多にしてこないんでおかしいと思ったらこっちから聞かないと話しませんし」
なるほど…さすが双子の姉。
「元気にふるまってるんで気付くのも大変ですが健二さんなら分かると思うので」
「努力します」
「お願いします。あと、意外とロマンチストです」
「あ、それは分かります」
「ふふ…」
「ははは…」
お互いに笑いあった。
これも同じような経験があるのだろう。
「あ、そうだ、これ渡しておきます」
「はい?」
むつきさんは手帳を取り出すと何かを書き込み俺に渡した。
「えっと…」
「私の携帯電話の番号です」
「はぁ…」
「さつきの事で何かあれば聞いてください」
「なるべくお世話にならないようにします」
「そうですね」
ニコッと微笑むむつきさん。
笑い方までよく似ている。
照れくさく目線を駅のほうに向けると走ってくるさつきを見つけた。
同じくさつきの姿を見つけやれやれといった様子のむつきさん。そして…
「「遅い」」
見事にハモった。
「ごめん、お姉ちゃん!って、どうして先輩がここにっ!?」
「偶然だ。それよりお前、家に押しかけようとしてたな?」
「うっ!何故その事を?」
「むつきさんから聞いた」
「どうして話しちゃったの?せっかく先輩の驚く顔が見せると思ったのに!
それに先輩も!こういう時は知らない振りして家で待っているもんですよ!
せっかく可愛い彼女がうれし・驚き・素敵な計画を立てたのに―」
「…さつき」
「びくっ」
「あなた、あれほど待ち合わせには遅れないように言っていたのに…
健二さんとの待ち合わせいつも遅れているそうね…」
「そ、それは…」
「お前、いつも寝てるじゃないか」
「いや、あの…」
「「さつき」」
「うう…スイマセン…これから気を付けます…」
駅前での姉&彼氏のW説教。
これはかなりこたえたようで、さつきは少しの間おとなしかった。
しかし、俺が話しかけるとすぐにいつものさつきに戻った。
おとなしいさつきも新鮮だが、やはりいつものさつきの方が気が楽だ。
しばらく三人で商店街を歩いた後、俺は家に戻った。
せっかくの姉妹水入らずを邪魔したくなかった。
次の日。
「昨日先輩が帰った後大変だったんですよ!」
「何がだ?」
「お姉ちゃんにずっと説教されてたんですから!」
「それは、お前が悪いからだ」
「分かってますよ、だから今日は時間通りに来たじゃないですか」
「それが続けばいいんだがな…」
「それなのに先輩は感謝の一つもないんですか?」
「いや、それが当たり前―」
「別に抱きしめて『さつき、ありがとう』なんてしてくれって言ってるわけじゃないですよ!」
「お前!人前で―」
「それに先輩は私がいっしょーけんめー話していても『はぁ』とか『うん』とか、
あいづちばかりじゃないですか!」
「いや、繋がりが見えないんだが…」
「気付けばいっつも私ばかりしゃべってて会話のキャッチボールがないですし、
まるで私がおしゃべりみたいじゃないですか!」
「自覚ないのか?」
「そりゃ少し明るすぎるのは自覚してますけどそれは私の取柄ですから!」
「…」
「先輩!聞いてますか?先輩―」
さつきの話を聞きながら俺はある決心をした。
昨日渡された電話番号。
なるべく頼らないと決めたがそうは言ってられない。
今夜にでも掛けようと思う…
聞くべきことは一つ。
『どうすれば延髄チョップ以外でさつきを止められますか?』
[終]
『進藤むつき』SSです。今までで一番大変だったかもしれません。
『むつき』の会話の絶対数が少ないので口調や反応については八割方自分の想像です。
健二の敬語についても絶対数が少ないので変かもしれません。
書き終わって誰かに似てると考えていたら、
【水夏】の「上代蒼司」でした。
作:2005/4/17
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