都会の喧騒の中で…

作:ねこすき☆とも

 ひかりEND後。建次はひかりの所に会いにに行くことに。しかし、一抹の不安が…


 

「やっと着いたか」

電車を降りた俺はそうつぶやいた。

電車を何本も乗り継いでやっと到着。

ひかりも毎年こうしてやって来ていた。

おまけに今年は夏休み最後に手紙で呼び出したりもした。

この苦労を考えると少しだけ気が重くなる。

しかし、今回は連休を使って俺の方から会いに行く。

ひかりには秘密で。

「どんな顔するかな」

喜ぶだろうか?

驚くだろうか?

照れくさそうに笑うだろうか?

いきなりの事で文句を言うかもしれない。

少し不安だが楽しみでもある。

ただ俺には一抹の不安があった。

「けんちゃ〜ん、まってよ〜」

後ろから聞こえてくる恐ろしくぽんこつな声。

「七海、頼むから大声で呼ばないでくれ」

「だ、だって〜」

「恥ずかしいだろ!」

「先に行っちゃうんだもん…」

「そんなつもりはない」

はたして純粋な田舎育ちの七海がこの都会のペースに着いてこれるのか?

それが俺の不安だった。

ひかりに会いに行くといった時、七海も一緒に行くと言い出した。

そのときは別に反対しなかったのだが、今になって不安が押し寄せてきた。

「行くぞ」

「うん」

「ちゃんと着いて来いよ」

「ねぇ、道分かるの?」

「俺はもともとこっち育ちだ」

「あ、そうか」

もともと都会育ちの俺はまったく問題ない。

そんな俺に対して七海は不安そうにキョロキョロとしている。

田舎者丸出しといった七海。

少しからかってみたくなる。

「七海」

俺は足を止めると小さな声でそういった。

「何?」

「迷った…」

「嘘?」

「…嘘だ」

「脅かさないでよ〜」

「すまん。行くぞ」

どうも調子が出ない。俺のじゃなく七海の。

いつもなら『えぇ〜』となんともぽんこつな声を出すのに。

とは言えこんな人ごみの中でそんな声を出されても困るが…

逆に都会に染まった七海も想像できない。

「七海」

「なに〜」

「お前はそのままでいろよ」

「?」

意味が分かっていない様子の七海。

歩きながら『?』という顔をしている。

柱にぶつからない事を祈るばかりだ。

 

七海が静かになったおかげで自分の事を考えれるようになった。

自分の事…と言ってもひかりの事だ。

こっちでひかりに会うのは初めて。

言ってしまえば自分の知らない『ひかり』に会う事になる。

その事に不安があった。

都会でのひかりは自分の知ってる『ひかり』、だろうか?

それとも自分の知らない『ひかり』だろうか?

考えてみても分かるものではなかった。

「どうしたの?」

そんな様子の俺に気付いた七海が声をかけてきた。

「いや、こっちでのひかりはひかりかな?って思って…」

「?」

意味が分かっていない様子の七海。

「つまり、俺たちの知ってるひかりなのかな?って」

「あ」

「生活のスタイルがまるで違うからな。ひかりもこっちでは変わっちゃうのかな?」

「う〜ん」

「…」

「きっと変わらないよ」

「そう思うか?」

「うん!ひかりちゃんはひかりちゃんだと思う」

「そうだな」

不安がなくなったわけでは無かったが少し楽になった気がした。

実際は会ってみないと分からない。

「よし」

腹をくくった。どこにいても、ひかりはひかりだ。

 

 

「ここだな」

メモに書いてある住所を確認すると目の前には『仲里』と書いてある表札があった。

「ひかりちゃん、いるかな?」

「アポなしだからな」

「いるといいね」

「そうだな」

俺はチャイムを鳴らそうと手を伸ばす。

ピンポーン

しばしの沈黙。そして、

「はーい」

その瞬間、心臓が強く脈を打ち鼓動が早くなった。

聞き間違えるはずがないひかりの声。

いた!いてくれた!

ガチャ

「はい、どちら…」

「よっ」

ひかりの動きが固まった。まるで苦手な幽霊でも見たかのような反応。

「こんにちは〜、ひかりちゃん」

「…」

「せっかく会いに来たんだ。もう少し嬉しそうな顔をしたらどうだ?」

「…アンタたち…何しに来たの?」

「会いに来たって言わなかったか?」

「連絡ぐらいよこしなさいよ!」

「そしたらお前は来なくていい、自分が行くって言うだろ?」

「そうだよ〜」

「そうかもしれないけど…」

「とりあえず上がっていいか?これでも疲れてる」

「あ…うん」

 

「まったく…いきなりなんだから」

「驚いたか?」

「あたりまえでしょ!」

「なら成功だ」

「アンタねぇ」

「けんちゃん凄く楽しみにしてたんだよ〜」

「な、七海っ!」

「だって本当の事じゃない」

「いや、それは…」

そうなんだが図星なだけに反論ができない。

「それよりアンタ達、今日どこに泊まるの」

「適当に宿でもとるさ」

「…決めてこなかったの?」

「まったく」

「……家に泊まる?」

「いいのか?」

「七海は私の部屋で寝てもらうとして、あんたはソファーで寝てもらうけど」

「いや、助かる」

「七海もそれでいい?」

「うん、ありがと〜」

「まったく宿も決めずに来るなんて…どこ行くかとかも考えてないんでしょ?」

「俺も七海も詳しくないからな」

「だね〜」

「しょうがないわね、私が案内してあげる」

「よろしく〜」

「じゃ、行くわよ」

「今からか?」

「当然よ!行く場所はたくさんあるんだから」

「いや、もう少し休んで―」

「行くわよ、七海」

「わわっ、ひかりちゃん、ひっぱらないでよ〜」

「―から…」

俺の言葉を待たずにひかりは七海を引っ張って行った。

どうやらひかりは俺を動かす術を心得ているようだ。

七海を拉致されてはどうしようもない。

 

ひかりの遊ぶペースは恐ろしく激しかった。

田舎と違い遊ぶ場所が多い都会。

俺と七海はひかりのペースに振り回される形となった。

 

 

「だらしないわね〜」

夕暮れ。バックに噴水を従えたベンチに俺達は座っていた。

非常にロマンチックな場所だが、状況が恐ろしくロマンチックでない。

「ペースが速すぎる」

「男でしょ?」

「慣れてないんだ、しかたないだろ」

「だから今休んでるじゃない」

「はしゃぎすぎだ」

「しかたないでしょ、楽しかったんだから」

「まったく」

「楽しく…なかった?」

そう言うとひかりは俺の肩に頭を乗せてきた。

普段のひかりの行動を考えるとこういった行動は反則に近い。

「いや、楽しかった…それに…」

「それに?」

「ひかりと一緒だったから」

「うん」

「なぁ、ひかり」

「何?」

「ごめんな、いきなり会いに来て」

「そんなこと…私も嬉しかったから」

「よかった」

「ありがと、会いに来てくれて」

「いいさ。それに…ひかりはひかりだったし」

「何それ?」

「どこで暮らしていても、ひかりはひかりだったって事」

「アンタ、そんなこと気にしてたの?」

「会う前までな」

「アンタよく言ってるじゃない『ひかりは自分勝手だ』って。そんな私が変わるわけないでしょ?」

そうだった。良くも悪くも自分勝手なひかりが変わるわけがなかった。

「そうだな」

「変な心配してんじゃないの!」

「…どんな心配ならしていいんだ?」

「元気にしてるか…とか」

「そんなのは毎日だ」

「本当?」

「嘘言ってどうする」

「そうね…」

「…さて、そろそろ行くか?」

「待って」

「どうした?」

「もう少し…このまま…」

「…ああ」

心地良い。

ひかりの頭が肩の上に乗っていて重いはずなのにそう感じた。

しかし、そんな雰囲気に浸っているのも束の間、俺はとんでもない違和感を感じた。

状況としては非常にマズイ。

認めたくないがそんな余裕はない。

恐る恐るひかりに尋ねる。

「なあ…ひかり…」

「何?」

「七海は…どこだ?」

「え?」

七海がいなかった。

いつからだ!?

必死で記憶をたぐる。

かなり早くからいなかった気がするが…

「…探しましょ」

「…しかたないな」

そう言って俺たちは腰を上げた。

二人とも分かっている。

七海から目を離したことが失敗だった事を…

「ひかり」

そう言って俺はひかりの手を強く握った。

「あ…」

「お前ともはぐれたらおしまいだ……行くぞ」

「…うん」

ひかりは照れくさそうに答えると俺たちは夜の街を走り出した。

どうやら俺たちは『静かに二人だけの時間を過ごす』というのができない運命らしい。

『俺たちらしいな』

そう思うと軽い笑いが出る。悪い気分じゃない。

そして走るスピードを少し上げる。

今、夜の街での七海大捜査が始まった。

 

 

 

そのころ七海は…

「うえ〜ん、けんちゃ〜ん、ひかりちゃ〜ん」

警官「泣いてないで名前を教えてもらえるかな?」

 

 

[終]

 


 

多恵SSに続くラムネSS。建次がひかりに会いに行くという話。

七海先生には『どんな場所でもいつもどおりの二人』を表現するために登場してもらいました。

元のタイトルは『都会の喧騒の中で愛を叫ぶ』でしたが、

「叫んでねーじゃん!」「ベタなパクリをするな!」ともう一人の自分に言われてやめました。

七海の口調が難しいです。頭の中で動かしていると日和になりそうで・・・おまけにタイトルあまり関係ないような・・・

作:2005/3/28

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