架け橋

作:ねこすき☆とも

近衛七海 Birthday SS


 

「どうしたものか…」

5月前半の休日。

誰も居ない家のリビングに陣取り吐き出すように言った。

普段は集中できない頭はフル回転である事を考えている。

ある事……それは、お隣さんであり、幼なじみであり、今は恋人同士でもある

『近衛七海』の誕生日が間近に迫っている事だった。

つまり、誕生日プレゼントを何にするか…

はっきり言って俺はこの手の事は疎い。

「まぁ、直感行動型の人間…要するに行き当たりばったりだからな……ははははは…」

意味も無く笑ってみる。

「さて…自虐ネタはこれくらいにして…」

ふざけている場合ではない。

なるべく早く決めておかないと…買いに行くにも時間がいるし…

しかし、さっぱりと思いつかない。

「誰かに相談するべきか…」

だが、鈴夏は部活に行っている。

普段なら真っ先に相談する相手がいないと言う事で焦りがましてくる。

「端野…」

端野はどうだろう?

アイツならこの手の事はマメにやってそうだ……結果は付いてきていないが…

「駄目だ」

アイツに聞くのはプライドが許さない。からかわれるのもごめんだ。

「他に相談できそうなヤツ……!」

一人の人物が頭をよぎった。

すぐさまソファーを立ち電話に駆け寄る。

傍に置いてある電話帳をめくり番号をプッシュする。

コール音が響く。

休日の昼間…家にいないかもしれない。

再びコール音が響いた。そして―

『ガチャ―もしもし、仲里です』

「もしもし、友坂建次ですが…」

『あ、なんだ、アンタか。珍しいじゃない、アンタが電話してくるなんて』

「むっ、その横柄な態度はひかりだな!何の用だ!?」

『アンタが電話してきたんでしょうがっ!』

「おっとそうだった、スマンスマン」

この電話の相手、俺の従姉妹でもあり七海とも仲の良い仲里ひかりだ。

街住まいでもあるし一応女の子なので相談相手にはもってこいだと思う。

『で?何か用事?』

「ああ、ちょっと相談したくてな」

『相談?相談なんて七海にすればいいじゃない?』

「いや、七海の事なんだ」

『どう言う事?』

「ほら、今月七海の誕生日だろ?」

『ああ、その事?』

「まぁ…な。おまえはどうするんだ?」

『私は毎年送ってるわよ』

「マジか?」

『マジよ』

「何を?」

『こっちで流行ってる服とかアクセとか』

「それは俺には用意できそうにないな…」

『思いつかないならさりげなく聞いてみれば?』

「それはできない」

『どうして?』

「プライドが許さん」

『はぁ…』

「第一七海の事だ、堆肥やら農業用具やらを要求しかねない」

『…確かに』

「それに、そういうのなら別に誕生日でなくてもいいし」

『そうね…』

「で、何にするかだ」

『うーん…アンタが自分で考えなさいよ』

「相談した意味が無いじゃないか」

『私が決めるよりアンタが決めたほうが七海も喜ぶわよ』

「まぁ、そうかもしれんが…」

『そゆこと』

「はぁ、分かったよ。とりあえずありがとうな」

『どういたしまして』

「じゃあな」

『あ、今年の夏もそっち行くから』

「ああ、分かった」

『じゃあね』

「ああ」

ガチャ

受話器を置くと再びソファーに座り考えを巡らせる。

「いっそ耕運機でも買うべきか…」

追い詰められているのが自分でも分かる。

完全に思考が行き詰った状態。何か新しいファクターがあれば…

「ただいまー」

救世主(?)が帰宅した。

もともとは鈴夏に相談するつもりだったしちょうどいい。

「あ、ただいま、お兄ちゃん」

「お帰り、親父は?」

リビングに入ってきた鈴夏と挨拶を交わす。

「まだ学校。雑用片付けて帰るって」

「そうか、それより鈴夏、待ってたぞ」

「え、どうして?」

「相談がある」

「私に?」

「おまえ、七海の誕生日プレゼント決めたか?」

「うん、ばっちりだよ!」

「何にしたんだ?」

「秘密」

「教えてくれ」

「じゃあお兄ちゃんも教えて」

「……決まってない」

「え?決めてないの?」

「ああ、だから参考にさせてくれ」

「そう言う事なら…」

「で、何にしたんだ?」

「作業着」

「……は?」

「作業着」

「いや、二度も言わなくていい」

「そう?」

「何で作業着なんだ?」

「七海お姉ちゃんが畑仕事で汚れてもいいように」

「なるほど…」

確かにベストチョイスと言えばベストチョイスだろう。

しかし、年頃の女の子が年頃の女の子に作業着を送ると言うのはいかがなものか……

二人の将来が少し不安になる。

「参考になった?」

「いや、俺はその方向だけはやめようと思っていた」

「えーっ!」

「逆にますます難しくなった」

「ぶーぶー」

ブーイングを繰り返す鈴夏。

「どうしたものか…」

「何も思いつかないの?」

「何かないか?」

「うーん…あ!目覚まし時計とかは?」

「もってるだろ…」

「これでもかってくらい大きな音がするやつ。七海お姉ちゃん朝弱いし」

「まぁな…だから交代で起こしているわけで………!」

一瞬の閃き!

それはぼんやりとだが少しづつ形を成していく。

そして明確な形となった!

まるでジグソーパズルが完成するかの如くっ!

りんごが落ちるのを見たニュートンの如くっ!

砂浜で落とした鍵を見つけたかの如くっ!

「これは…いけるか…」

日付を確認する。まだ、時間はある。

この計画のキーマンは二人…

俺はすぐさま立ち上がり出かける準備をした。

「お、お兄ちゃん?」

「ありがとう鈴夏。兄は外出する、留守番を頼んだ」

「あ、うん」

「いってくる」

 

ガラン

五月晴れの空の下を歩き俺は七海のお母さんの営む喫茶店にやってきた。

おばさんがこの計画のキーマンの一人。

「こんにちは」

「あら、いらっしゃい」

カウンターの席に腰掛けながら挨拶を交わす。

「アイスコーヒーお願いします」

「はい」

おばさんは手早くコーヒーを準備するとスッと差し出した。

「どうも」

一口飲み喉の渇きを潤すと店内を見回す。

七海はいない。今はいてもらってはこまる。

「どうかしました?」

その様子に気付いたおばさんが声をかけてきた。

「あ、いえ」

「今日は七海は家にいるはずですが…」

「いえ、今日はおばさんに用があって」

「私にですか?」

「ええ、相談なんですが…」

「はい」

「実は―」

 

喫茶店から戻ると再びソファーに腰掛け親父の帰りを待つ。

おばさんの許可は取れた。

問題はあの堅物がなんて言うかだ。

「かえったぞ」

ガタイに見合った野太い声が玄関から聞こえ、家の主の帰宅を告げた。

「ただいま」

声の主、父・友坂健柳流はリビングのドアを開けながら二度目の帰宅を告げる。

「おかえり」

「おお、ここにいたのか」

「なぁ、親父…」

「なんだ?」

「相談がある」

「ほう、いつに無く真剣な面構えだな…言ってみろ」

「実は―」

 

「…本気か?」

「本気だ」

「いや、しかし…相手は年頃の女の子だぞ」

「今更だろ?」

「そうかもしれんが…」

「費用は全て自分で出す」

「むぅ…」

「おばさんは了承してくれた」

「マジか?」

「マジだ」

「本人の許可は?」

「それこそ今更だろ?」

「…分かった」

「ありがとな」

 

翌日、もろもろの準備を済ませた。

と言っても俺にできることはほとんど無く当日を待つのみとなった。

 

当日―

盛大ではないが七海の誕生日会が友坂家で行われていた。

鈴夏からのプレゼントの作業着に素で喜ぶ七海をみてなんとも言えない気分になる。

俺はおばさんの手料理を食べつつ時計を気にしていた。

連絡のあった時刻まであとわずか。

「健ちゃん、どうかしたの?」

俺の様子を見て七海が話しかけてきた。

「いや、何でもない」

「そう?何か落ち着かないから…」

「そんなことないって」

「そうかな〜」

「そうだよ」

そんなわけないのだがとりあえずそう言って再び時計を確認する。

…そろそろか…

ピンポーン

玄関のチャイムが来客を告げた。

時間的にも自分絡みであることは間違いない。

俺は何食わぬ顔で席を立つと玄関に向かった。

ドアを開けるとツナギに身を固めた男が4人立っていた。

その場で内容を確認すると家に入れる。

その内の一人は工具箱を、もう一人は建材を持っている。

「こっちです」

自分の部屋へと続く階段に案内する。

「健ちゃん?」

「お、お兄ちゃん?」

七海と鈴夏が不思議そうに言った。そりゃそうだ…

事情を知っているおばさんと親父は平然としている。

「まぁ、二人ともリビングにいてくれ」

そう言って明らかに工事関係業者の4人を連れて2階に上がる。

部屋に入るとベランダに案内し工程を確認した。

 

けたたましい音がベランダを支配する。

俺は部屋の中から様子を眺めていた。

さすがにプロの作業は早い。自分でこうはいかないだろう…

 

一時間程で作業は終りリーダーであると思われる男が何度も安全確認をしている。

そして、それが終り全ての工程が終わったことを告げられた。

 

「七海、ちょっといいか?」

業者が家を去った後、俺はリビングにいる七海に声をかけた。

「うん、何?」

「ちょっと来てくれ」

「何なの?」

「ちょっと…な」

そっけない態度をとり七海を部屋へ導く。

部屋に入りベランダに出た時七海の動きが止まった。

「これ…」

「誕生日プレゼント…かな」

「…橋?」

「渡り廊下みたいな物だ」

俺達二人の目の前にあるもの。

それは俺と七海の部屋のベランダを繋ぐ“橋”だった。

「今までは俺が跳んで七海の部屋に行くだけだったけど

これで七海も俺の部屋に来れるだろ」

「…」

「一応親父とおばさんの許可は取ってあるけど嫌なら外せるから」

「…ううん」

「七海?」

「嫌じゃないよ、ちょっと驚いたけど」

「だろうな」

「なんて言うのかな…今までも近かったけど、これでもっと近くなったね」

「そうだな…まぁ、鍵はかけないでおくからいつでも来てくれ」

「うんっ」

「ただノックはしてくれよ?」

「分かった」

「しかし…」

「どうしたの?」

「自分で付けといてなんだが、プライバシーも何もあったもんじゃないな…」

「そうだね〜」

「ははは…」

「ははは…」

 

 

 

「健ちゃ〜ん、起きてよ〜」

声が聞こえる。

「健ちゃんでば〜」

俺の名前が呼ばれる。

「遅刻しちゃうよ〜」

体が揺らされる。

鈴夏とは違うリズムとぽんこつな声。

これは…

ムクッ

「あ、やっと起きた」

「おはよう、七海」

「おはよう」

「時間は?」

「ちょっと危ないかも」

「そうか、なら急いで準備するか」

「うん、じゃあ下で」

「ああ」

笑顔で返事をして七海は自分の部屋に戻っていった。

あの“橋”を渡って…

『お兄ちゃ〜ん、起きてる〜』

「ああ、起きてるよ」

『朝ご飯できてるよ〜』

「すぐ行く」

ドア越しの鈴夏の声に返事をすると俺は手早く準備を整える。

そして流し込むように食事をすると荷物を持ち玄関を出る。

その瞬間、日の光と共に五月晴れの空に出迎えられた。

「今日もいい天気だ」

聞く相手のいない言葉を吐くとベランダを見上げた。

そこには俺の部屋と七海の部屋を繋ぐ“架け橋”が存在していた。

この橋ができてから数日。

何のトラブルも無く、昔から存在していたかのような当たり前の存在になっていた。

「しかし…」

改めて思う。

「プライバシーも何もあったもんじゃないな…」

両家公認の専用通路。

…いや、そんな物は昔からあった。

俺がジャンプで七海の部屋に行き出した頃から。

今までは一方通行だっただけで昔から“橋”はあったのだ。

目に見えなかっただけで…

「今更か…」

妙に納得してしまう。

ガチャ

お隣の家のドアが開き一人の少女が現れた。

「おまたせ〜」

「七海…どうして起こされた俺のほうが早いんだ?」

「はうっ…そ、それは…」

「まあいい、行くぞ」

「うんっ」

二人で学校へと歩き出す。

俺と七海にとっては普通の光景。

「しかし…」

「?」

「今更だよな〜」

「何が?」

「何でもない」

「何なのよ〜」

「ほらっ、七海、いくぞ」

歩くスピードを少しだけ早める。

「あっ、待ってよ〜」

すぐに横に並んでくる。

「五月晴れだな」

「気持ちいいね〜」

いつもと変わらないような会話。

意識すると少しだけこそばゆい…

「よしっ、七海!」

「何?」

「走るぞ!」

「え?えっ!?」

「遅れるな」

「わわっ、待ってよ〜」

今俺の横にいる当たり前の存在。

それがどんなに大切な存在であるか、俺達は知っている。

知っているから、近づこうとする。

どこかで聞いたことがある…いや、本で読んだのかもしれない。

人と人との距離は決して零にはならない。だから人は近づこうとする。

…上等だ。

なら俺達はそれが嘘であると証明してやる。

俺と七海ならきっと出来るはずだ。

だけどそんな事を口に出すのは恥ずかしくて…

だから今は、これだけを言っておこう…

「なぁ、七海…」

「何?」

「えーっと…」

「?」

「その…なんだ…」

「?」

「あのな…」

 

 

HAPPY BIRTHDAY!七海!

 

 

[終]

 


 

はっぴ〜ば〜すでい ななみん!

って事で、七海誕生日SSです。

……無駄に長いっ!強引っ!雑っ!………スイマセンデシタ

約1ヶ月ぶりのSSです。ネタが無いって辛いっす…とにかく強引にまとめてみました。

って出だし「日和誕生日SS」と同じじゃねーかっ!芸がないな俺…

思い直す所があれば少しづつ修正していくと思います。

作:2005/5/20

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